2006年6月17日・朝日新聞。
故佐藤栄作元首相が受けたノーベル平和賞の賞金を基に設立された佐藤栄作記念・国連大学
協賛財団は、第22回「佐藤栄作賞」の受賞論文を決めた。
最優秀賞「核拡散防止への実効ある提言」(古川和男)(要約)
今こそ、初心に戻って核分裂科学の本質を再検討し、軍事悪用を封じるのに適した
「核分裂エネルギー平和利用技術」を本格的に開発すべきである。実は人類はその道を
大戦中から営々と模索研究していた。そして1970年初頭に到達したのが、トリウム系液体
(熔融塩)核燃料を利用する原子力発電炉(原発)技術であった。トリウム資源は十分で広く
分布し独占されない。重大事故は原理的に起こさず、核拡散の主役プルトニウムを生成
せずに有効に燃焼焼却できるので、核拡散・核廃棄物問題は大きく改善できる。その基盤
技術は1950〜76年頃に米国オークリッジ研究所で大いに研究開発されたが、軍用に向かず
冷戦下で敬遠されてしまった。
それを更に単純化し実用性を高め小型化に適し、経済性高く、世界展開を可能にした
のが、ここに紹介する核燃料自給自足型トリウム熔融塩炉;である。特に強烈なガンマ線を
持つ核弾頭物質を取りだし利用するのは不可能で、監視検知も極めて容易であって、
核拡散防止には最適、軍用に不適である。全世界で処分に困っている使用済み固体核燃料を
熔融塩燃料に変え、その中のプルトニウムを燃焼消滅させつつ、無理なく、トリウム核燃料
サイクルに移行できるから、現在の原発路線からの切り替えは滑らかである。
この「核拡散防止」に優れた新核技術は、また地球環境・エネルギー・貧困問題打開に
広く貢献できる。技術基盤は整っているので、20-30年とわずかな資金で国際共同開発が
可能である。技術立国日本の平和で健全な発展のためにも、この構想の積極的開発を国際
共同で開始すべきである。