W 食と健康                       座長:三原 晃 NPOローハスクラブ理事長)

報告1
「世界を救うマクロビオティック」
            
美上 みつ子 マクロビオティック・コンサルタント


「世界一長寿国日本は,世界一健康な国民。日本の伝統食,玄米菜食を基本にするマクロビオティックが世界中に広まりつつあることは,日本は健康を世界に輸出している。その価値を当の日本人がわかっていない」ミナ・ドビック
1998-2002
年ボストン・クシハウスに滞在,欧米でマクロビオティックを研修。帰国後,新潟県見附市健康福祉課,日本CI協会,オランダ,マレーシアなどでマクロビュオティック講師。商品開発,レストラン運営に協力,メニュー開発,講演会を企画。マクロビオティック,クッキングを指導。近著に『玄米レシピー、スープレシピー』『マクロビオティッハンドブック』『体の中からきれいになるマクロビオティッ


マクロビオティック(Macrobiotics)の概要

                              
 美上みつ子

マクロビオティックとは、ギリシャ語の造語で、Macro=大いなる、大きい、Bios=生命、
生活という言葉からできています。

自然に逆らわず、自然とともに生きるという意味が込められています。マクロビオティッ
クの考え方の中には「陰陽」「身土不二」「一物全体」「宇宙の秩序」などなど、深い意
味を持つ言葉がいくつも存在します。その中でも「身土不二」と「一物全体」は健康の二
大原則と言われています。

一物全体(ホールフーズ)

一物全体とは「一つの物を丸ごと食べる」という意味です。生命あるものは全て、「丸ご
と1個」の中で調和が保たれてます。例えば、白米のように精白されたものは、調和を崩
し、既に生命は奪われています。玄米は蒔けば発芽しますが、白米は芽が出ることが無い
ように...。ですから、お米はもみを取っただけの玄米、野菜は根や皮を捨てず、アク抜
きや茹でこぼしをして養分が流失してしまうようなこともできるだけ避けて、そして全体
をいただくようにします。調和のとれた全体をいただくことが、生命力を維持していくの
に大切なことなのです。

身土不二

身土不二とは、「人間は自分の生まれ育った土地(環境)と一つである」という意味で、
平たく言うと「身体(身)と環境(土)はバラバラではありませんよ」といくことです。
他の動植物がそうであるように、「人間は地球(自然)の一部」です。ですから、その気
候風土の変化に適応していくことで、本来の人間としての健やかな精神や身体のバランス
を維持できると考えられます。つまり、その土地、季節に自然に育つ穀物や野菜をいただ
き、環境そのものを身体に摂り入れていくことが大切なのです。例えば、秋に旬のものを
食べる時、私たちはその食物の育ってきた気候、風土、水、空気、土、それら全ての環境
を身体に取り入れていることになるのです。

そして、寒いときには身体の温まる食べ物を、暑いときには身体を冷やす食べ物をいただ
くようにします。

暑い場所や暑い季節には植物自身が熱から自分自身を守るために、冷やす成分を多く含ん
だ食物に育ちます。逆に寒い土地や季節のときには寒さに耐えてぐっと引き締まり、身体
を温める作用のあるものが多く育つのです。自然とは実にうまくできたものだと言わざる
を得ません。こうやって人間は、大自然の知恵を拝借して、長い間、生きてきました。

現代の日本では、一年中同じものを食べることができます。また、世界中のあらゆる食べ
物を食べることができます。こういったものも時々食べるのはいいですが、土台となる食
物は身土不二の考えに沿ったものにし、精神と肉体のバランスを崩さないようにしたいも
のです。

陰陽

陰陽のバランスを保つことは、古代から、様々な文化や文明、宗教、普段の生活の中に自
然に取り入れられてきました。私たちに日本人も日常、知らず知らずに、自然な形で陰陽
を用い利用しているのです。

陰陽の例:        
   陽性 陰性  
動き:活発、緩慢 
行為:活発、積極的、優しい、消極的、
重量:重い、軽い 
温度:暑い、寒い 
光 :明るい、暗い、 
感触:固い、柔らかい 
性 :男性、女性 
位置:内部、中心、外部、周囲、 
湿度:湿っぽい、乾燥 
形状:大きい、小さい 
生体:動物性、植物性
密度:濃い、薄い 
外形:膨張性、丈夫、もろい、収縮性、 
機能:拡散、収縮 
声 :大きい、小さい
状態:精神、肉体 
仕事:心理的、精神的、肉体的、社会的 
全般:遠心力、求心力


参考資料:


  「全マクロ食育基金」開設のための趣意書

 食は人間の根幹を支えるものであり、食なくして身体および精神を育むことはできませ
ん。しかし、その食はあまりにも身近な習慣になっているため、その大切さを理解できな
いまま、現代の食は乱れに乱れています。
 核家族化が進行する時代に各自バラバラの食が進む家庭での変化。コンビニ弁当、ファ
ーストフード、インスタント食品などの偏った食の蔓延。化学調味料、合成保存料などの
食品添加物の使用実態。農薬、化学肥料、遺伝子組み替えを用いた農作物の生産・流通。
食品業界に続発する様々な偽装問題などを見れば、食の乱れがそのまま人々の生活から社
会全体の乱れへとつながって行ったことがわかります。
 健全なる精神は健全なる身体に宿ります。先年、施行された「食育基本法」はまさに時
代の要請であり、食の乱れを正し、肉体とともに心を育てることによって、豊かな人間性
を育むことを目指しています。知育・徳育・体育という、いわゆる教育の三要素に、その
ベースとなる食育を加えることで、初めて全人教育が可能になるからです。
 しかも、現代の食は世界を無視しては成り立ちません。
 2009年1月に、ミナ・ドビック(Mina Dobic)が来日しました。彼女は
歌手のマドンナやハリウッドスターのトム・クルーズやニコール・キッドマンなどの料理
・健康管理を行ったり、リッツカールトンホテル(ラグナビーチ)のヘルスメニューを指
導しているアメリカ在住のマクロビオティック指導者です。
 現在66歳の彼女はユーゴスラビア出身の元ラジオパーソナリティです。仕事の忙しさ
にかまけ、乱れた食生活を送る中で、卵巣ガンを病んで余命二カ月と宣告されました。ガ
ン治療を続ける中で、西洋医学に絶望した彼女は、マクロビオティック(玄米菜食)によ
る食事法に出会うことで、奇跡的に回復。食事の力を自ら体験したことから、本格的にマ
クロビオティックを習うため、家族でアメリカに渡ったところ、帰国直前、ユーゴ動乱が
勃発。帰国できなくなった彼女はロサンゼルスで料理教室を始め、やがて「ハリウッドの
健康料理人」として知られるようになり、現在では広くアメリカ、ヨーロッパで活躍して
います。

 今回の彼女の来日は、歌手の加藤登紀子さんが所属するトキコ・プランニングが受入窓
口になって、日本CI協会、ワン・ピースフル・ワールド日本、株式会社「ピエトロ」、
NPO「食育フォーラム軽井沢」の協賛により、東京・奈良・福岡でのイベントが行われ
ました。
 彼女の来日を機に、平成20年11月11日に創設された「全マクロ食育基金」は、子
どもの食育から大人の食育までを、日本ばかりでなく世界を舞台に、展開していくための
重要な核をなすものです。そのため「基金」の名称にも、それなりの背景があります。冒
頭の「全」は全体という意味だけではなく、日本の「禅」の意味を含んでいます。「全」
と「食育」の間をつなぐ「マクロ」は「大きなもの」の総称であるとともに「マクロビオ
ティック=玄米菜食」の神髄を示すものとして用いられています。
 特に、マクロビオティックにおける「全」および「食育」の重要性から「全」には、次
のような意味が込められています。
1.世界の安心・安全・幸福・平和を目指す、その対象となる全体、全世界の「全」。
2.宇宙および自然の在り方から導き出された、陰陽のバランスを元に一つのものを丸ご
  と食べる「一物全体」。穀物なども精白せずに全粒穀物を食の基本にする、ホールフ
  ーズとしての「全」。
3.その考え方のベースにある絶対平和理論と、その哲学を支える食育の智恵としての精
  進料理=玄米菜食の伝統を持つ「禅」。
 これら三つの意味からなる「全=ZEN」は、さらに「善」および「然」に通じます。

 マクロビオティックという言葉および活動は日本ではあまり一般的ではありませんが、
しばしば「長寿法」と訳されてきたように、もともと古代ギリシャで、大きいを意味する
「マクロ」と、生命や生活を意味する「バイオス」という言葉からできています。そこか
ら自然と調和した生活、健康な生き方を送るための食事法として知られています。
 その食事法は日本の伝統的な食事が基になっており、それを海外でジョージ・オーサワ
として知られる桜沢如一(日本CI協会創設者)が、20世紀に再び欧米に広めたことか
ら現代のマクロビオティック=食育の聖地は日本ということになっています。
 自然食(ナチュラルフーズ)、有機農法(オーガニック)、ロハス(ライフスタイル・
オブ・ヘルス・アンド・サスティナビリティ)、日本の食事バランスガイドなども、いず
れもマクロビオティックの展開の中から生まれてきたものであり、日本の「食育」の背景
には常にマクロビオティックの伝統、考え方があります。

 今回のミナ・ドビックの来日は、彼女の自伝『マイ・ビューティフル・ライフ』をベー
スに、日本における新たな本づくりのための取材・打ち合わせと、2009年秋に出版さ
れる本の事前PRを兼ねた講演セミナーを行うためのものでした。
 私ども「全マクロ食育基金」は関係各位から広く集めた浄財を彼女の本づくり、来日時
のイベント費用等に当てるとともに、2009年秋に予定されている出版記念イベント、
さらに海外からの講師および参加者を募り、日本で開催する「全マクロ食育世界大会」を
毎年展開していく活動を行ってまいります。

 なお、現在「全マクロ食育基金」の支援事業として予定されている主なものは、以下の
通りです。

・「全マクロ食育世界大会」の開催および各種テキストの作成、PR活動。

・食および食育指導者養成のためのセミナー、検定制度、全マクロ食育カレッジの創設。

・服部幸應「服部栄養専門学校」校長が委員長を務める「世界料理サミット」への参加。

・マクロビオティックの考え方から生まれた大豆アイス(総合医療研究会推薦)の展開。

・非遺伝子組み換えの無臭大豆(国産特許品種)の長野県その他での栽培、販売、普及。

・「ライスパワープロジェクト」など、日本の米づくりの新たな推進。

・軽井沢を拠点にするNPO「食育フォーラム軽井沢」との連携イベント、事業。

・地域コミュニティづくりのための、無農薬農法による「食育特区」の事業化。

・「食材はクスリ、キッチンは薬局」の考えによる野菜レストラン、治療食料理の提案。

・マクロビオティック=食育劇「28人の極悪犯たち」などの制作。

・身障者、児童、高齢者などの社会的弱者のための「アートパラリンピック」の開催。

・アフリカのニジェールで医療活動を続ける谷垣雄三博士への支援。

・世界の食、人口、環境、エネルギー等の危機を救う日本の最先端技術の紹介など。

「全マクロ食育基金」の活動は、日本そして食に限定されないことから、マクロビオティ
ックおよび食育の目指すものを視野に、肉体ばかりではない心の栄養面を重視した幅広い
事業を考えています。
 その第一歩がミナ・ドビックの来日と本の出版であり、その後に続く「世界料理サミッ
ト」への参加、そして「全マクロ食育世界大会」なのです。

 以上、その使命を全うできるよう、関係各位の御理解と御協力をお願いする次第です。

                               平成21年2月

 「全マクロ食育基金」設立準備委員会 
                代表世話人 早川和宏(ジャーナリスト)
                世話人  美上みつ子(ミナ・ドビック日本代理人)
                事務局長 高見誠志郎(公認会計士・税理士)


 事務局 〒105−0001
     東京都港区虎ノ門1−4−4 川村ビル5F 高見公認会計士事務所内


 ホームページアドレス www.zenmacuro.com

早川和廣 略歴

 1948年 新潟市に生まれる。幼少より、東京で育つ。
 1971年 立教大学経済学部経営学科卒。マルクスの哲学および弁証法、マックス・
 ウェーバーの社会学を学ぶ。同年、光文社の月刊「宝石」編集部記者となる。
 その後、巣vレスサービス編集部部長、蒼結档<fィアセンター取締役等を歴任。社会
 派ジャーナリストとして幅広いテーマに取り組んでいる。ジャーナリストの良心の証と
 して、肉食を断ちベジタリアン(玄米菜食=マクロビオティック)となる。専門分野は
 「人間」、究極の理想は「世界平和」である。

 主な著書:
 『三越残酷物語』『堤義明・悪の帝王学』『堤義明式・経営の失敗』『魔法の経営』
 『サッポロビールの逆襲』『アサヒビール樋口廣太郎のスーパー経営術』
 『ビジネスマン・90年代の選択』『会社の品格は渋沢栄一に学んだ』)

 
 
沈黙する春と地球の悲鳴


 2006年,アメリカの各地で次々とミツバチが大量死して話題になった。その原因をレポー
トした『実りなき秋』(邦題・ハチはなぜ大量死したか」)という本も出版されている。
 日本でも、突然ミツバチが姿を消して、農業の現場では受粉のためのミツバチ不足が深
刻になっている。それは、まさに50年近く前、レイチェル・カーソンが『沈黙の春』の
冒頭で描いた鳥の鳴かない、虫のいない自然の姿を彷彿とさせる。
 当時から地球環境は危機的状況にあったわけだが、彼女のメッセージはいつも注目され
てはきたが、ハッキリと目に見えないこともあって、その本当の恐さがなかなか伝わらな
かったのである。

 そんな状況の中でも、少しずつだが、無農薬、オーガニックといった安全な食を求める
動きは続いていた。それを推進してきたのが、マクロビオティックの活動であった。
 ニューヨークに初めての自然食品店をオープンさせ、英語で初めて自然食を意味するナ
チュラル・フーズという言葉を使ったのも、マクロビオティックの展開の中でだった。
 そして、ミツバチの羽音もしない自然をレイチェル・カーソンは「沈黙の春」と呼んだ
が、地球全体を見たとき、近年の地球はあちこちで悲鳴を上げているようでもある。
 地球が病めば、そこで育つものたちも病んで当然である。事実、自然を離れて生きられ
ないわれわれ人間も、いろんな意味において病んでいる。

 2008年1月に来日した際、ミナ・ドビックは、本書でも述べているように、世界一の長寿
国である日本は、世界で一番健康な国民であり、日本の伝統食である玄米菜食を基本にする
マクロビオティックが世界中に広まりつつあることは、日本は健康を世界に輸出しているの
だと語り、その価値を当の日本人がわかっていないと指摘している。

 だが、そう強調される一方で、確実に現代の日本人の体と心、そして社会そのものが病
んで、危機的な状況を迎えている。
 心臓および脳血管疾患に代わって、ガンが日本人全体の死因の第一位になって約一〇年
。日本は世界一の長寿国であると同時に、二人に一人がガンにかかり、三人に一人がガン
で亡くなっていくガン大国でもある。
 近年、大きく変化した病気の傾向は、食の変化に対応するように、同じガン、心臓疾患
でも、より西洋型のタイプのものが増えている。

 ハリウッド・セレブたちの世界にマクロビオティックを広め、最高級ホテルチェーンの
リッツ・カールトンにマクロビオティックメニューを導入させ、現在もアメリカ西海岸で
マクロビオティック・カウンセリングと料理指導を続けているミナ・ドビックは、パンに
ラードを塗り、肉とチーズや乳製品、トマトやジャガイモを主食にしてきた旧ユーゴスラ
ビア出身の六四歳の女性である。

 ラジオ・パーソナリティとしてメディアの頂点で活躍していた彼女は、忙しさの中、食
生活の乱れから45歳のときに卵巣ガンで倒れ、医者から「余命2ヶ月」と宣告された。
 本書のベースとなっている彼女の自伝『マイ・ビューティフル・ライフ』は、抗ガン剤
や放射線治療を拒否して、友人の医師が実践していたマクロビオティックによる食事療法
に従った結果、一年足らずで末期ガンを克服し、死の淵から生還する話である。
 多くの人たちがガンや難病その他で亡くなっていく現在、なぜ彼女は奇跡的な回復を見
ることができたのか。その事実だけを取り上げるとき、彼女の物語は個人的なできごとを
描いた、特殊なケース、つまりは例外的な話と思われても不思議ではない。
 だが、それは奇跡と呼ぶべき事例ではあるが、彼女がマクロビオティックの実践を決断
したのは、マクロビオティックの世界では同じような奇跡が、ただの偶然や幸運の結果で
はなく、実際にあることを知って、それに賭けてみたからである。
 彼女は末期ガンをマクロビオティックによって治し、さらに本格的にマクロビオティッ
クを勉強することで、自分の体験が決して一個人の特殊なものではないことを理解した。
だからこそ、その後、今度は指導者として自分と同じように病気になった人たちを救って
きたのである。

 事実、食を正したことによって、ミナ・ドビックの奇跡は起きている。しかも、その食
とは二十世紀に桜沢如一という一人の日本人が欧米に広めたマクロビオティック、要する
に玄米菜食を基本にした日本の伝統食である。そのことを良く知っている彼女は「私は日
本に救われた」という思いを強く持っている。
 その彼女が現在、ファストフード、コンビニ食が全盛の日本の食の実情を横目に、本来
の日本の食の素晴らしさを説いて歩いたのが、初めての来日記念講演の内容でもあった。
 アメリカの後を追うように、日本も食が変わることによって、ガンその他の病気が増え
て、医療費の増大に苦しんでいる。
 彼女が最終的に西洋医学ではなく、マクロビオティックを選択し、ガンを克服したこと
からもわかるように、現代の医療は様々な矛盾を抱えている。あらゆる科学が飛躍的に発
達したとされる中で、医学の進歩にも目覚ましいものがあり、立派な病院ができて、巨大
な製薬会社が我が世の春を謳歌している。

 ところが、肝心の健康は手に入ったのかと言えば、ガンその他の治らない病気が増えて
、日本の国民医療費が国家予算のおよそ三分の一を占めるまでになっただけである。
 さすがに最近は、患者の側も大量に出される薬に疑問を感じて、飲まずに捨てるといっ
た形で自己防衛をしたり、病院に行かずに健康食品やサプリメント、その他の代替医療な
どに頼る人たちが増えている。
 だが、それらはあくまでも代替的な対処法でしかない。

「リンゴ」に奇跡をもたらした土壌
 マクロビオティックの原理については、本書にも詳しく説かれているが、マクロビオテ
ィックの世界では食べ物の栄養が肉体をつくり、エネルギーが精神つまりは霊性を育むと
言われている。実際に、明日の肉体と健康は今日、何を食べるかにかかっている。食事は
一〇年後、二〇年後の自分の命に直結しており「今日、おいしいから」と、単なる無知や
欲望に任せて漫然と食べれば、メタボリック症候群その他、生活習慣病が待っている。
 食が乱れれば肉体は病み、霊性が損なわれる。逆に、人間が生きていく上での基本とな
る食を正せば、現代の医学で「余命二カ月」が限度と言われた末期ガンが消えて、難病が
治る。

 もちろん、あらゆるものに完全はない。ある人には有効でも、別の人には効果がなかっ
たというケースもある。それでも、およそマクロビオティックの世界では効果がなかった
ケースは、その人および病気に対する捉え方の不備、または正しい食材と正しい指導と正
しい食べ方のどれか、あるいはそのすべてが欠けている場合がほとんどである。
 それが、なぜ彼女にマクロビオティックは、それほど有効であったのかという疑問に対
する答えである。

 そして、本書の中でミナ・ドビックは次のように述べている。
「マクロビオティックは正しく自分に、そして食に向き合って食べるとき、本当にその力
が実感できます。マクロビオティックの世界では精製しない玄米や玄麦などを原則にして
います。それは例えば玄米を水に浸しておいたときに、芽が出てくるからです。玄米の栄
養と白米に胚芽を合わせた栄養が、仮に同じだとしても、両者のエネルギーはちがいます。
玄米のほうには命が宿っているのです。私たちが玄米を食べるということも、あるいは野
菜のヘタや根っ子を大事にするのも、それらの部分から芽や根が生えてくるからです。
それをいただくということは、生きている命を自分のものにするということです。
 その命をいただいていることが実感できるからこそ、すべてがつながっていることもわ
かってくるのです」

 こうしたメッセージがなかなか届かないのは、世界の人々の心の土壌があらゆる意味に
おいて荒廃し、傷ついてしまっているからであろう。肝心の受信機(レシーバー)がおか
しくなっているのである。
 安全な作物を育てるため、あるいは人間の心を育むために、いかに土壌が大切かは「絶
対に不可能」と言われた無農薬・無肥料栽培でのリンゴづくりを成功させて話題となった
『奇跡のリンゴ』『リンゴが教えてくれたこと』という本の中で、わかりやすい形で表現
されている。
 リンゴの自然栽培に取り組んだ青森の木村秋則氏が無農薬・無肥料栽培に移行して六年
目の夏の夜。実の成らないリンゴ畑を抱えて、これ以上、周りに迷惑はかけられないと、
死んでお詫びをしようと山に入っていったときのことである。
「ここらで」と思ったあたりまで来たところ、ふと月の光に浮かぶリンゴの木がビッシリ
と実をつけていた。その光景を見て、彼は山で育ったリンゴは完全無農薬・完全無肥料で
実をつけることを悟ったのである。
 翌日、改めて山のリンゴ畑に行ってみたら、実はそれはリンゴではなく、ドングリの木
であったわけだが、リンゴのことしか頭になかった彼には、ドングリもまたリンゴにしか
見えなかったのである。
 それでも、山の自然と自分の畑との大きなちがいは、山の土がふかふかなこと、雑草の
生い茂る中に育っていることだった。なんとも言えない土の匂いに、その山の土壌を再現
すれば、必ず無農薬・無肥料による自然栽培が可能になると確信した彼は、改めて自分の
リンゴ畑に向き合った。
 通常は下草を刈ることによって、リンゴに虫が来ず、大きく育つと言われていた。当然
、木村氏のリンゴ畑にも雑草は生えていない。
 ところが、良く見ると、失敗して枯れたリンゴの木を隠すように、道路に面した一角に
梨や桃、ぶどうなどの果樹を植えていた。そこだけには、実のならないリンゴ畑とは対照
的に、果樹が豊かな実をつけていたのである。
 しかも、まったく手入れなどしていないため、果樹の下には雑草が生い茂っていた。要
するに、遠い山の中で見つけた“奇跡”が、ごく身近にあったということである。
 もちろん、その後の木村氏の苦労と努力は本に書かれているように並大抵のものではな
いが、まさにリンゴに奇跡をもたらしたものは、農薬でも肥料でもなく、害虫も益虫も、
無駄にしか見えなかった雑草も、共存、共栄、共生している自然であった。
 リンゴ栽培の傍ら、米や野菜づくりにも独自の方法を応用した、木村氏の無農薬・無肥
料栽培は、これまでの無農薬による自然農法とは一線を画する、実に画期的なものとなっ
ている。
「自然には何一つ無駄なものはない」という木村氏の自然栽培は、いかに土壌が大切かを
教えているとともに、土壌が整うことによって、実は自然に雑草が生えなくなり、害虫が
来なくなるのだという。それは、基本的に人の手が入らない山の自然の姿でもある。
「奇跡のリンゴ」を通してわかることは、人間の肉体という土壌が病んでは、折角の栄養
が働かない。そして、人間の霊性、心の土壌が病んでは、肝心のメッセージが届いていか
ないということである。
 農薬と化学肥料漬けの農地を本来の自然豊かな農地に生まれ変わらせるためには、時間
をかけて土壌を改良する必要がある。同様に、薬漬け、化学物質漬けの肉体を本来の健全
な状態にもどすためには、デトックス(毒出し・毒消し)して浄化する必要がある。
 マクロビオティック(玄米菜食)はデトックスのためのもっとも有効な食生活であり、
だからこそマクロビオティックを続けることで、心の土壌も整ってくるのである。
 土壌が整えば、自然栽培や自然農法が急速にうまく展開していくように、病気もまた驚
異的な回復を見せるということである。

 彼女が取り組んだマクロビオティックとは、それだけのインパクトを持った内容なのだ
ということを見逃してはならない。そこを読み取ろうとしないならば、彼女のストーリー
の価値も面白さも半減するからである。
 ミナ・ドビック一家はマクロビオティックを始めてから、この22年間、病院には行った
ことがない。個人的なことだが、私の家族も子どもが小学校三年生以後は医者に行ってい
ない。忘れたころに、歯医者に通う程度である。私自身は20年以上、保険証を使ったこと
がない。
 マクロビオティックの仲間は、まず基本的に医者にかかることはないからである。たま
に肝心な指導者が愚かにも自らがガンになって、入院するぐらいなものである。
 それも因果関係がわかっていてのことであり、本来はマクロビオティックを実践するこ
とは、医者にかからないということである。
 そして、健康を手にすることによって、医療費の削減に寄与できるのだから、マクロビ
オティックの実践は医療費の増大に悩む国家に貢献する道でもある。その意味では、本来
は一人一人が真剣に取り組まなければならない問題でもある。

 
肉なしの月曜日キャンペーン
 私たちが普通に暮らしている一方で、世界にはいまも戦争とテロそして飢餓に苦しむ人
々がいる。豊かな暮らしを謳歌してきた先進諸国は、地球というもともと国境のない中で
、自らがもたらした危機的な環境破壊、温暖化などに直面して苦悩している。
 よく知られているようにハンバーガー1個分の牛肉をつくるのに、4.5キロ近くの穀物を
必要とする。フライドポテトの油にはトウモロコシ30本が必要になる。
 世界の食糧問題ばかりでなく、エネルギー問題、環境問題まで考えたとき、動物性タン
パク質にかたよった食生活の在り方は、見直す必要があるはずだ。スローフード運動、ロ
ハス(ライフスタイル・オブ・ヘルス&サスティナビリティ)が脚光を浴びるのも、当然
の時代の流れである。

 2007年のノーベル平和賞を受賞した国連・気候変動に関する政府間パネル(IPC
C)のパチャウリ議長が、英「オブザーバー」紙で「牛や豚などの肉の消費量を減らすこ
とが、温室効果ガスの削減に貢献する」「週一で休肉日をつくろう」と述べ、物議を醸し
たことがある。
 彼は「牛や羊などが直接出すメタンだけではなく、牧場のための森林伐採や肥料の生産
や輸送、トラクターなどの燃料を含めた食肉産業全体が排出する温室効果ガスは、世界の
五分の一近くを占める」と指摘。インドのパチャウリ議長はベジタリアンなので、様々な
面での肉食の非効率性を理解しているのである。

 最近では、ビートルズの元メンバーであり、マクロビオティックを実践しているポール
・マッカートニーが食肉生産を減らすため、やはり週1日は肉を食べない日を設ける「ミ
ート・フリー・マンデー」(肉なしの月曜日)と銘打ったキャンペーンを始めている。
 イギリスの人気ロックバンド「コールドプレイ」のボーカリストで「恋におちたシェイ
クスピア」でアカデミー賞をとった女優グウィネス・パルトローのパートナーであるクリ
ス・マーティンや、1999年の映画「アメリカン・ビューティ」でアカデミー賞主演男優賞
を受賞したアメリカの俳優ケビン・スペーシーなど、多くの著名人が支持していて、キャ
ンペーンに賛同した有名シェフらが月曜日には肉なしのメニューを提供するというものだ。

 また、多くの人たちが飢えに苦しんでいる中で、大切な穀物が今度は家畜の飼料ではな
く、より高く売れるバイオ燃料の原料にされるようになっている。家畜が食べているトウ
モロコシの10%で、世界の飢えた人たちをほぼ救うことができると言われているのにで
ある。
 ポール・マッカートニー同様、ベジタリアンでマクロビオティックを実践していた故ジ
ョン・レノンは「イマジン」の中で「想像してほしい」と歌った。「すべての人々が、い
まを生きていると」「すべての人々が、この世界を分かち合っていると」

 人々がマクロビオティックを始める理由は様々である。それでも、始めてみると、割り
と簡単に健康が手に入って、前向きで楽しい考え方が身について、とても“得”をした気
分を味わうことができる。
 しかし、食に止まっている限り、それは個人的なレベルのものでしかない。本当のマク
ロビオティックの醍醐味、目指すものは、その先にある。つまり、自分ではなく、世界中
の飢えた人々、戦火に怯える人々、あらゆる弱者のことを思って、肉食を断つことが、た
とえわずかではあっても、間接的に彼らを飢えから救う確実な手段になると感じながら、
大半のベジタリアンは生きている。そして、それは本当は誰もができることなのである。
 マクロビオティックには戦争やテロ、争いごと、飢えの恐怖のない世界を築き上げる大
きな力がある。そう信じられるからこそ、ほんのちょっとの想像力があれば、世界は変わ
ると、ジョン・レノンはドリーマー(夢想家)を装いながら歌ったのである。

 
世界そして日本に対するメッセージ
 ジョン・レノンの生きていた時代も今も、アメリカ社会では銃とテロの恐怖が身近な存
在である。同時に、アメリカは偉大でソ連(当時)なき後、唯一の超大国でもある。
 そんなアメリカの威信が大きくグラつき傷ついたのが、2001年の9.11同時多発テロであ
った。思いがけない事態に遭遇したニューヨーク市民は、手を差し伸べ、助け合い、協力
することによって、危機に立ち向かった。そして、アメリカは自信を取りもどし、国民を
鼓舞するために星条旗を掲げ、声高にテロの撲滅を叫んだ。
 そのとき持ち出されたのが、危機に直面して沸き起こった愛国心であった。それはごく
自然な感情の流れのようであり、アメリカ国民にとって、とても美しいものに思えたはず
である。

 事実、愛国心は必要なものだと思う。それでも、愛国心には二つの意味がある。狭義の
愛国心と広義の愛国心で、いまの世界には狭義の愛国心が満ちているから、国々の間で争
いが絶えないことになる。
本当の愛国心とは生まれ育った国、帰るべき地、アイデンティティを保証してくれる自
分の国を愛することによって、同じようにその他の国々、関わりのある相手の国を愛する
ことである。要するに、自国と同じように他の国々をも愛する心がなければ、本当の愛国
心とは言えないだろう。それが、旧ユーゴスラビアとアメリカという二つの国で生きてき
たミナ・ドビックの当然の思いであった。

「マクロビオティックの目指すもの」として、ミナ・ドビックは本書の中で、こう語って
いる。
「本当の国際化とはあらゆるものの共存のはずです。それぞれの国がそれぞれの国の立場
を考え、その良さ、個性を尊重しつつ、お互いを認めることによって成り立つ関係です。
そうでなければ、大航海時代の略奪、植民地時代の侵略と何ら変わらないことになるから
です。
 正義は絶対的な価値があるように聞こえますが、正義を持ち出すとき、敵対し対立する
ものは戦うべき相手として、否定する存在となります。その世界ではあらゆる悪や毒、汚
物や腐敗はもちろん、自分たちにとって不都合なもの、邪魔なもの、損や負(敗北)、弱
さ、様々なハンデなどのマイナス要因などは、排除すべき存在になるのです。
 そこは競争原理に則った優勝劣敗が支配する淘汰の世界であり、それが実際に争いが続
く理由です。正義はそれぞれの立場によって異なるからこそ、いくつもの正義が生まれ、
収拾がつかなくなるのです。
 自然界ではあらゆるものが共存し、共栄し、共生しています。そこには悪も毒も敵も、
それぞれの役割を持って、ともに生きています。それが本来の在り方、自然なのです。
 自然を大切にし、人間同士が信頼し助け合う世界こそが望ましいという、日本人の伝統
的に培ってきた文化、精神風土、即ち『和』の心、つまりは愛の精神が世界の希望であり
、そこにこそマクロビオティックの目指すものがあります」

 本当の愛国心があれば、9.11後の助け合いによる愛の精神が同じアメリカ人に向けられ
るだけではなく、実は広く世界に向けられるべき現実も見えてくる。テロ撲滅の名のもと
に報復攻撃されるイラク、アフガンその他の国々にも、同じような人々の営みがあって、
市民、家族が生きているからである。
 いろんな人たちが憎しみに対しては、同じ憎しみではなく、徳をもって、あるいはやさ
しさをもって対するべきだと述べている。不幸の連鎖は誰かがどこかで勇気をもって、断
ち切らなければ、いつまでも同じことが繰り返されるからである。ガンジーやキング牧師
を持ち出すまでもなく、その勇気と可能性を多くのベジタリアンは持っている。

 まずは無関心ではなく、関心を持って相手のことを見るほんの少しの想像力が愛なので
ある。そして、相手のために時間を割くことこそが愛であり、その愛がなければ、ミナ・
ドビックがいつも言うキッチンを薬局にする料理のための時間を取ることもできない。
 マクロビオティックが平和を掲げているのは、そのことの意味がハッキリとわかってい
るからであり、ワン・ワールドをキャッチフレーズにするのも、そうした考え方がマクロ
ビオティックを実践していく中で自然に身についていくからである。

 それが食を入り口にして、健康と美と愛を手に入れた、その先にある世界である。
 結局、彼女のストーリーは単なるガンから生還した体験談ではなく、現代の日本そして
世界に対する深いメッセージの込められたものなのである。そのことを理解しなければ、
彼女の奇跡は単なる闘病記の一つになってしまう。
 安全で正しい食に変えることによって、健康だけではなく、その人の人生を変え、本来
の人間としての使命に目覚めることになる。そして、世の中を動かす大きな可能性を得る
ことができるのだという、マクロビオティックのメッセージこそが大事であり、それは様
々な面で病んで苦悩する自然と人類の危機に対する警鐘でもある。

 最近、日本では「草食系男子」という言葉が話題になり、いろんなところで一人歩きし
ている。元気でたくましい女性とは対照的に、野心に乏しく、恋愛にも消極的だが、家庭
的で温和でやさしいというイメージの、要するに最近の新人類というわけである。
 だが、草食系男子の典型と言われるタレントが肉食系で焼肉屋デートを報じられている
ように、それは単なるイメージでしかない。マクロビオティックを実践してきた、いわば
元祖・草食系男子のイメージとはちがうという事実も、マクロビオティックに実際にチャ
レンジしてみればわかることである。

 ミナ・ドビックの物語の中から、女性はハリウッドやリッツ・カールトンなどのセレブ
なイメージに象徴される健康と美だけを得るのではなく、その愛とやさしさを、そして男
性は彼女の発する元気さ、バイタリティーあふれるエネルギーと強さを、ぜひ自分のもの
にしてもらいたい。
 というのも、本書の全編を流れる彼女の思いは「あなたにも私の“奇跡”を分けてあげ
たい」というものだからである。

     2009年7月             早川和宏(ジャーナリスト)
                      「全マクロ食育基金」代表世話人